AI の台頭により、コードベースの変更はかつてないほど迅速かつ容易になりました。しかし、現代のソフトウェアデリバリーのような複雑で相互依存的なシステムでは、コードを書くこと自体が最大の課題であったことはありません。多くのチームにとって真の制約となっているのは、そのコードを安全に本番環境へデプロイすることです。
AI アシスタントや自律型コーディングエージェントが変更のペースを劇的に加速させているにもかかわらず、多くの組織では、これらの変更が既存のボトルネックに蓄積されているのが現状であり、その結果は深刻です。
数々の調査が示すように、企業の AI 導入の大部分は、数千億ドル規模の投資にもかかわらず、有意義なリターンを生み出せていません。ソフトウェアチームに関して言えば、Google の DORA リサーチと CircleCI 独自のレポートによると、AI ツールの採用が進んでいるにもかかわらず、2024年のデリバリースループット(顧客に届く新しいコードの量)は停滞、あるいは減少傾向にあることが明らかになっています。
信頼性ギャップ、生産性パラドックス、70%問題ーどのように呼ぼうとも、事実は明白です。コーディングの高速化がチーム全体の開発速度向上に結びついていないのです。スループットが横ばいとなり、仕掛かり中の作業が山積する中、いつこの潜在的価値が実現されるのか、多くの組織が疑問を抱いています。
コードが増えれば問題も増える:AIが解決できていないSDLCのボトルネック
コード生成を高速化しても、デリバリー速度が向上しないのであれば、一体何がチームの足かせとなっているのでしょうか?
業界アナリストのレイチェル・スティーブンス氏は、この疑問に対し、「私たちは集合的に誤った制約を特定し、そこに注力してしまったというのが私の仮説です。個人の生産性を高めてより多くのコードを作成できるようにすることと、ソフトウェア開発ライフサイクル(SDLC)全体をより効果的で安定したものにすることは、全く別の問題なのです」と述べています。
AI 生成コードは、開発者のパソコンからエンドユーザーに届くまでの配管システムにおいて、耐圧試験を受けている状態だと考えてみてください。AI は蛇口を開いて大量のコードをシステムに流し込んでいますが、統合、テスト、リリースといった下流のパイプラインは、この流量に対応できるように設計されていないため、問題が顕在化しています。
これらの問題がどこで発生しているのか、詳しく見ていきましょう。
統合のボトルネック
コードの生成量が増えるにつれて、統合ポイントも増加します。AI によって生成されたプルリクエストは、従来の CI パイプラインでは検証しきれない速度でリポジトリに流入しています。チームからは、すべてのプルリクエストにビルド、依存関係チェック、環境セットアップが必要なため、統合キューが数日間停滞することもあると報告されています。かつて1日に数十件のプルリクエストをマージしていたチームが、今では数百件のプルリクエストに直面し、それぞれが既存のパイプラインキャパシティを奪い合っている状況です。
レビュー疲れ
たとえ最初のビルドをクリアしたコードであっても、人間による確認は不可欠です。しかし、AI が生成するプルリクエストは大量に、しかもコードベースの複数の箇所にわたる広範囲な変更を含むことが多々あります。レビュアーは、機械が書いたコードの膨大な量の中から、隠れたハルシネーションや脆弱な回避策を見つけ出す作業に追われます。時間が経つにつれて、レビュアーは認知的負荷に押しつぶされ、燃え尽きてしまう可能性があります。
テストの遅延
自動テストは、人間が行う変更のペースと規模に合わせて設計されてきました。かつては手動開発のリズムに適していた10分のフィードバックループも、AI が開発者のコード作成と反復の速度を加速させた今では足かせとなっています。小さな調整を行うだけでもテストスイート全体を実行する必要があるため、開発者はワークフローのペースに追いつかず、結果を待つことを強いられています。
リリースの摩擦
コードは、統合とテストをクリアした後も、手動での承認、変更レビュー、コンプライアンスゲートといった厳しいプロセスを経る必要があります。これらの手順は、それぞれ正当な理由があって存在していますが、元々は変更の頻度が低く、規模が小さく、追跡が容易だった時代に構築されたものです。現在では、AI が生成するコードの速度にガバナンスが追いつかず、結果としてリリース速度が低下しているのが現状です。
AI デッドロックがビジネスに与える影響
これらの課題が複合的に作用することで、組織は以下の2つの望ましくない選択肢に直面します。
- コードの停滞: 作業が承認待ちでキューに滞留します。表面上は開発速度が向上しているように見えても、実際にはサイクルタイムが長期化し、貢献が宙ぶらりんの状態となることで開発者の士気が低下します。CFO は、機能提供の加速という相殺効果なしに、クラウドコンピューティングとライセンスへの支出が増加するのを目の当たりにします。
- リスクの高いリリース: ボトルネックを回避するため、多くのチームはプロセスを省略します。テストをスキップしたり、大規模なプルリクエストをまとめて処理したり、手動承認を迂回したりするケースが見られます。これにより脆弱性が本番環境に混入し、その後の修正コストは大幅に高くなります。結果として、障害、セキュリティ脆弱性、コンプライアンス違反が組織全体のリスクとなります。
価値提供へのプレッシャーに直面した多くの組織は、未検証のコードをリリースせざるを得ない状況に追い込まれています。その結果、チームメンバーの誰もが十分に理解し信頼していないソフトウェアが本番環境で稼働するという、知識のギャップが広がっています。

全員が成果物を完全に理解していないと、問題のデバッグ、変更の説明、運用中のシステムへの信頼が困難になります。結果として、ビジネス全体の信頼が損なわれるのです。
AI 生成コードは、ソフトウェアデリバリーの経済性を一変させました。コード作成の限界費用は急落しましたが、それを安全に出荷する限界費用は上昇しています。このバランスを取り戻さない限り、組織は「遅延」か「脆弱性」かという選択を迫られ、AI 導入のビジネスケースを損なうことになります。
次のステップ
AI により、SDLC においてコード生成は最もコストのかからない部分となりました。しかし、真の機会は、その後の検証、オーケストレーション、リリースといったプロセス全体に移行しています。これらが新たな制約であり、インテリジェントな自動化の次のフロンティアです。コード生成の枠を超えて AI を適用することで、信頼性を回復し、ボトルネックを削減、信頼性を損なうことなくデリバリーを加速させることが可能になります。
CircleCI は、まさにこの分野に注力しています。既に最初のステップとして、CI/CD の複雑な作業を排除する自律型エージェントを実現しました。このエージェントは、24時間365日パイプラインを健全に保ち、不安定なテストの修正、失敗したビルドの修復、設定の最適化、効率性の向上を行います。これにより、開発者は開発に集中することができます。チームのパターンから学習し、実行ごとに改善され、ボトルネックが蓄積されないよう検証を継続的に効率化します。結果を待ったり、失敗を追いかける代わりに、グリーンビルドと人間にしか解決できない問題に、より多くの時間を費やせる朝を迎えることができます。
私たちが提供するのは、これだけではありません。以下にも投資しています。
- 重要なジョブを優先し、結果を迅速に提供するスマートパイプライン
- 変更に関連するテストのみを実行するアダプティブテスティング
- 自動承認と安全なロールバックによるリスクフリーデリバリー
- より直感的なプラットフォーム(シンプルなインタラクションと強力な自動化)
加速する変化のペースに対応するには、検証とデリバリーのシステムも同様に進歩する必要があります。そうでなければ、組織は自信を持ってリリースできない、あるいは完全に信頼できないコードに圧倒される危険性があります。
私たちは現在、この未来に向けて準備を進めています。AI がソフトウェアデリバリーライフサイクルの残りの部分(検証からリリースまで)をどのように改善できるかについて、皆様からのご意見をお聞かせください。ぜひ早期アクセスにご登録いただき、私たちが構築しているものを体験してください。