わずか 10 年間でスマホは広く普及しました。スマホを使えば、メールや電話でコミュニケーションをとりやすくなり、エンターテインメントを楽しめ、管理ができて、さらにさまざまなユーティリティがアプリケーションという形で手に入ります。

ユーザーは、Apple 社の App Store や Google Play ストアから、こうしたスマホアプリにアクセスします。そのため、開発者は、スマホのオペレーティングシステム (OS) を念頭に置いてアプリを構築します。現在ターゲットとされているオペレーティングシステムの主流は、Android と iOS の 2 つです。Android と iOS のどちらをターゲットにするかで、アプリケーション開発の戦略は左右されます。

スマホアプリの開発形態には、ネイティブアプリ開発手法とクロスプラットフォーム開発手法の 2 つがあります。ネイティブアプリ開発とクロスプラットフォーム開発のどちらを採用するかは、どのようなモバイルアプリプロジェクトでも最も重要な決定事項の 1 つです。このたった 1 つの決定事項が、アプリの設計、開発に使用するテクノロジー、ひいてはアプリのユーザーに、非常に大きな影響を与えるのです。


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ネイティブアプリ開発とクロスプラットフォーム開発はどう使い分ける?

ネイティブアプリ開発クロスプラットフォーム開発の基本的な違いは、開発の対象となるオペレーティングシステムの違いによって生じます。ネイティブモバイルアプリの開発では、オペレーティングシステムについて、Android か iOS のどちらか一方専用のアプリをビルドします。これに対して、クロスプラットフォームモバイルアプリの開発では、複数のオペレーティングシステムに対応するアプリをビルドします。

まずは、ネイティブアプリとクロスプラットフォームアプリの性質と開発方法の違いや、両者のメリットとデメリットを見てみましょう。その後、採用する開発手法の決定時に考えるべきポイントについても説明します。

ネイティブモバイルアプリとは?

ネイティブモバイルアプリとは、Android か iOS のどちらか一方のみをターゲットとして開発するアプリケーションのことです。通常は、開発対象のオペレーティングシステムに応じた特定のプログラミング言語で、アプリケーションを記述します。

Android のネイティブアプリは、Java または Kotlin で記述します。Java は、Android アプリの開発当初から使われているプログラミング言語です。Kotlin は、2017 年に Google から Android アプリの開発言語に指定されました。Java がオブジェクト指向プログラミング専門であるのに対して、Kotlin はオブジェクト指向プログラミングと関数型プログラミングに対応しています。

iOS のネイティブアプリの開発には、Objective-C または Swift を使用します。Objective-C は C 言語の上位互換であり、iOS ソフトウェアの記述に使われた最初のプログラミング言語です。Swift は、2014 年に Apple 社が WWDC (World Wide Developer Conference) で発表したプログラミング言語です。以来、Apple 社のエコシステム向けの強力な汎用高水準プログラミング言語となっています。同社によれば、Swift は Objective-C に比べて最大で 2.6 倍速く、また構文も学習しやすいとされています。

有名なネイティブモバイルアプリには、以下のようなものがあります。

  • Google マップ
  • Pinterest
  • Spotify
  • WhatsApp

ネイティブアプリ開発ツール

モバイルアプリのネイティブ開発では、オペレーティングシステム固有のソフトウェア開発キット (SDK) に加えて、統合開発環境 (IDE) の用意も必要です。

Android アプリの場合は、Android StudioIntelliJ IDEA を使用します。これらのツールは、Windows、macOS、Linux のいずれでも動作します。iOS アプリ開発用の IDE は XcodeAppCode です。こちらのツールは macOS 専用です。

ネイティブアプリのメリット

ネイティブアプリを開発するメリットはさまざまであり、以下のようなものがあります。

  • パフォーマンスに優れる: ネイティブアプリは、特定のプラットフォーム専用に構築、最適化します。さらに、コンパイルも、プラットフォームの主要なプログラミング言語や API を使って行います。そのため、ネイティブアプリは速度と効率性が高く、ユーザーの操作に対する反応性も優れています。
  • セキュリティ対策を強化できる: ネイティブアプリでは、ユーザーのデータの安全性を高めることができます。各プラットフォームの組み込みセキュリティ機能を利用できるからです。
  • UX を高められる: ネイティブアプリは、入力や出力のユーザーエクスペリエンス (UX) がスムーズです。デバイスの OS のインターフェースをアプリが継承するので、見た目と使い勝手に一貫性があります。また、OS ごとの設計基準に従うので、アプリのフローが自然です。
  • デバイスの機能をフルに活用できる: ネイティブアプリでは、デバイスのあらゆる機能を利用できるので、ユーザーエクスペリエンスの質も整合性も高められます。また、プッシュ通知など、ユーザーエンゲージメント促進の鍵となるサービスも活用できます。
  • バグを最小限に抑えられる: ネイティブアプリ開発では、最新の SDK をリリース直後から利用できます。こうしたアップデートには、通常、機能の改善や新機能が搭載されています。

ネイティブアプリのデメリット

上述のように、ネイティブアプリには多くのメリットがありますが、注意が必要な点もいくつかあります。次のような点がデメリットになります。

  • 開発コストが高い: ネイティブアプリは、一般的にデプロイコストが高くなります。ターゲットのプラットフォームごとに開発者チームが必要だからです。たとえば、Android ネイティブアプリの構築には、Java または Kotlin に精通した開発者が必要です。iOS のネイティブアプリも構築するのであれば、Swift か Objective-C に精通した開発者も必要になります。
  • 開発に時間がかかる: 同種のアプリの開発でもプラットフォームごとに別々のチームが作業するので、時間がかかります。保守や機能強化でも、同様に多くの労力を要します。
  • コードの再利用ができない: 対象とするオペレーティングシステムごとに、コードを別々のプロジェクトに分けて作成し保存しなければなりません。

クロスプラットフォームモバイルアプリとは?

クロスプラットフォームモバイルアプリとは、単一のコードベースで構築するアプリのことです。この開発形態の目標は、プロジェクト 1 つで複数のオペレーティングシステムをターゲットとすることにあります。アプリ開発にはクロスプラットフォームのフレームワークを利用し、このフレームワークの統合 API からプラットフォーム固有の SDK (Android SDK や iOS SDK) を使用するのです。これにより、各プラットフォームの SDK やライブラリにアクセスしやすくなります。

こうしたフレームワークは民間企業が開発しており、人気の高いものには以下があります。

  • React Native (Meta 社製): プログラミング言語は JavaScript
  • Flutter (Google 社製): プログラミング言語は Dart
  • Xamarin (Microsoft 社製。後継は MAUI): プログラミング言語は C# と XAML

クロスプラットフォームアプリは、通常、ネイティブアプリらしさを出すネイティブ UI 要素を使うようにコンパイルします。前述のように、こうすることで、基盤となるプラットフォーム SDK に抽象化を追加します。公開されているセンサーから、GPS、バッテリーレベル、カメラ、マイクなどを利用可能です。

有名なクロスプラットフォームモバイルアプリには、以下のようなものがあります。

  • Instagram、Skype、Walmart、Airbnb (React Native 製)
  • Google 広告、My BMW アプリ、eBay Motors、The New York Times (Flutter 製)
  • The World Bank、Fox Sports、Alaska Airlines、BBC Good Food (Xamarin 製)

クロスプラットフォームアプリ開発ツール

クロスプラットフォーム開発でも、たとえば Android にアプリをデプロイする場合は、Android SDK のインストールと、Windows、macOS、または Linux のマシンが必要です。同様に iOS アプリの場合も、iOS SDK と Xcode が必要であり、さらに macOS マシンに限られます。以下に、上述のクロスプラットフォームフレームワークに対応した IDE の一覧を示します。

  • React Native モバイルアプリ: VS Code、Android Studio、WebStorm、Xcode、Atom
  • Flutter モバイルアプリ: VS Code、Android Studio、IntelliJ IDEA
  • Xamarin モバイルアプリ: Visual Studio

クロスプラットフォームアプリのメリット

クロスプラットフォーム開発には、次のようなメリットがあります。

  • 開発コストを抑えられる: クロスプラットフォーム開発の場合、開発チームは 1 つで済みます。ただし、採用するフレームワークを熟知することが求められます。クロスプラットフォームアプリの対象ユーザーはネイティブアプリに比べ幅広く、勢いづけや市場のテストにつながります。
  • コードを再利用できる: クロスプラットフォームのフレームワークでは、単一のコードベースで開発できます。そうすることで、利用するビジネスロジックの一貫性を確保できます。
  • 迅速に開発を進められる: コードの再利用と生産性の向上により、市場投入までの期間を縮められます。また、開発中のアプリのテストプロセスも最適化できます。
  • 保守が容易: クロスプラットフォームアプリは、ネイティブアプリに比べてアップデートが容易です。これは、単一のコードベースで対応できるからです。ターゲットのプラットフォームが異なるビルドでも使うコードは同じなので、一貫性を保てます。

クロスプラットフォームアプリのデメリット

クロスプラットフォーム開発では、ネイティブアプリ開発のデメリットを一部解消できます。とはいえ、クロスプラットフォーム開発にも次のようなデメリットがあります。

  • デジタルフットプリントが大きい: クロスプラットフォームアプリはサイズが大きくなりがちです。そのため、利用できるスマートフォンの最適化オプションに注意を払わなければなりません。
  • 統合が難しい: クロスプラットフォームフレームワークでは、プラットフォーム固有機能をすべて組み込めるわけではありません。たとえば、GPU を使用するようなハードウェア固有の統合には、ネイティブアプリ開発のスキルが必要です。
  • パフォーマンスが低い: 通常、クロスプラットフォームフレームワークでは、アプリを実行する際のカスタムランタイムをバンドルします。このランタイムが、プラットフォーム固有のサービスとの通信を担います。これにより、コンピューティングレイヤーが増え、パフォーマンスの低下につながります。
  • プラットフォームの最新機能が使えない: 一般的に、新機能や機能の更新は、SDK のアップデートで追加されます。しかし、クロスプラットフォームフレームワークでは、フレームワーク自体のアップデートが行われるまで、こうした新機能を利用できません。

ネイティブアプリとクロスプラットフォームアプリ: どちらがベスト?

ネイティブ開発とクロスプラットフォーム開発のどちらを採用するかの判断は、非常に重要です。ネイティブアプリの方がクロスプラットフォームアプリよりも適しているケースもあれば、その逆の場合もあります。アプリの対象ユーザー、予算、開発スケジュール、パフォーマンス、セキュリティのニーズなどを入念に検討することで、判断を下しやすくなります。

それでは、採用する開発手法を決定する際に考慮すべき要素をいくつか見てみましょう。

市場投入までの時間

市場投入までの時間は、スタートアップや新製品の展開で付き物の懸念事項ですたとえば、ユーザーに品質を評価してもらうために、早期に製品をリリースしたいとします。クロスプラットフォーム開発ではビルドとイテレーションを素早く進められるので、このアプローチが適しているでしょう。ネイティブ開発は時間がかかり、メンテナンスの労力も大きいため、結果として市場への投入が遅くなってしまいます。

セキュリティ

自社の評判と、ユーザーからの信頼を失うことによる影響は考慮に入れなければなりません。こうしたリスクは、モバイルバンキングアプリのようなアプリでは特に重大です。そのようなアプリでは、ネイティブ開発を選択した方がよいでしょう。ネイティブ開発なら、特定の OS ライブラリを使用したファイル暗号化やインテリジェントな不正検出など、組み込みのセキュリティ機能を数多く利用できるからです。クロスプラットフォーム開発はアプリの市場投入スピードという点で理想的であるのに対して、ネイティブ開発はセキュリティ、安定性、スケーラビリティが優れているのです。

パフォーマンス

モバイルアプリ、特にゲームアプリは、コンピューティングの要件が高いものです。高速なパフォーマンスが求められるアプリには、多くの場合、ネイティブ開発が適しているでしょう。こうした開発でクロスプラットフォームフレームワークを使うと、工数が増えるだけでなく、ネイティブアプリの専門知識も必要になります。特定のオペレーティングシステム向けにパフォーマンスを最適化すれば、開発したアプリケーションを余すところなく効率的かつ効果的に実行させられます。

開発コスト

モバイルアプリの開発予算は、企業によってまちまちです。低予算であれば、少人数体制のクロスプラットフォーム開発がおすすめです。クロスプラットフォーム開発であれば、コードやプロジェクトの再利用によるコスト削減も期待できます。

まとめ

売れ行き、安定性、評判のすべてがよいモバイルアプリを開発するには、アプリの対応 OS をどれにするのか、また対応システムを複数にするかどうかも決めなければなりません。ネイティブ開発とクロスプラットフォーム開発は、ともに Android と iOS のどちらにも対応しています。しかし、モバイルアプリを開発するのであれば、各手法に付随するツール、方法、メリット、デメリットまで視野に入れて判断するべきです。

また、Android と iOS のどちらのユーザーをターゲットにする場合でも、アプリケーション開発では常にセキュリティ、パフォーマンス、スケーラビリティを念頭に置く必要もあります。アプリケーション開発に万能のソリューションはありません。クロスプラットフォーム開発もネイティブ開発も、モバイルアプリ全般、ユースケース全般に最適なわけではないのです。モバイルアプリプロジェクトごとのニーズを継続的に評価し、ネイティブ開発とクロスプラットフォーム開発のどちらが適しているか検討しましょう。そして、まだ始動したばかりの時期だとしても、アプリケーションの今後の計画をしっかりと考えてください。

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