エンジニアリング管理Oct 20, 202411 分 READ

DORA メトリクス:DevOps パフォーマンスを測定する方法

Jacob Schmitt

シニア テクニカル コンテンツ マーケティング マネージャー

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DevOps は、プロセスの自動化と開発・運用チーム間のサイロを取り払うことで、ソフトウェア開発を加速します。このパラダイムシフトは、継続的インテグレーション(CI)継続的デリバリー(CD)を重視し、製品の市場投入までの時間を短縮し、高品質なリリースを実現して、顧客満足度を向上させます。

DevOps の取り組みから最大の効果を得るためには、測定可能な成果に基づいて実施することが重要です。DevOps パフォーマンスを測定するために最も一般的に使用されているフレームワークは、DevOps Research and Assessment(DORA)チームが特定した4つの指標です。それは、デプロイ頻度、変更のリードタイム、変更失敗率、そしてサービス復旧時間です。これらのDORA メトリクスは、ソフトウェアデリバリープロセスのスピードと安定性の両方をバランス良く評価できるため、組織がパフォーマンスを包括的に把握し、改善すべき領域を特定するのに役立ちます。

この記事では、DORA メトリクスの主要な要素とその利点、そしてこれらの指標がいかにして組織をより効率的で信頼性の高いソフトウェアデリバリーへと導くのかについて詳しく探っていきます。

DORA の背景

DORA メトリクスは、Nicole Forsgren 氏、Jez Humble 氏、Gene Kim 氏による研究から生まれました。2014年には、DORA チームがソフトウェア組織における DevOps プラクティスの効果を科学的に測定するシステムの提供を目指すと発表しました。

DORA チームの重要な発見の一つは、2018年に出版された『Accelerate: The Science of Lean Software and DevOps: Building and Scaling High Performing Technology Organizations』に記されています。彼らの研究によると、ソフトウェアデリバリーパフォーマンスはビジネスパフォーマンスと直接相関しており、DORA メトリクスで高いパフォーマンスを発揮する組織は、組織のパフォーマンス目標を達成する確率が2倍に上がることが示されています。この発見は、DevOps がソフトウェアの品質とビジネス価値を高める推進力として正当化される重要なマイルストーンとなりました。

これらの発見を基に、DORA チームの研究はコラボレーション、自動化、文化的要素など、DevOps プラクティス全般に拡大しました。しかし、最初に定義された4つの DORA メトリクスは、組織のパフォーマンス評価や DevOps 導入の改善を促進する重要なツールとして依然欠かせません。

DORA メトリクスとは何か?

DORA メトリクスは、組織のDevOps プラクティスの有効性と効率性を評価する4つの重要な指標で構成されています。これらは以下の通りです:

  • デプロイ頻度: コード変更が本番環境にデプロイされる頻度。デプロイ頻度が高いほど、組織は敏捷性が高く、顧客のニーズや市場の要求に迅速に対応できることを示します。
  • 変更のリードタイム: コード変更をコミットしてから本番環境にデプロイされるまでの時間。リードタイムが短いほど、機能や改善の提供が迅速で、ボトルネックが減少し、市場投入までの時間が短縮されます。
  • 変更失敗率: コード変更が失敗する、またはデプロイ後に修正が必要となる割合。変更失敗率が低いほど、開発およびデプロイメントプロセスが安定しており、品質が高いことを示します。
  • サービス復旧時間: サービス障害やインシデントからの復旧にかかる時間。サービス復旧時間が短いほど、インシデント対応手順が確立されており、システムの信頼性と可用性が向上していることを反映します。

DORA メトリクスとは何か?

DORA メトリクスは、組織のDevOps プラクティスの有効性と効率性を評価する4つの重要な指標で構成されています。これらは以下の通りです:

  • 速度指標: デプロイ頻度と変更のリードタイムは、ソフトウェア開発およびデプロイメントプロセスの速度と効率に焦点を当てています。
  • 安定性指標: 変更失敗率とサービス復旧時間は、ソフトウェアデリバリープロセスの信頼性と堅牢性を評価します。

速度と安定性は相互排他的ではなく、適切な DevOps 環境では互いに補完し合います。リードタイムを短縮し、小規模かつ頻繁なデプロイを行うことで、欠陥の発生を減らし、エラーからの復旧が容易になります。同様に、安定したデプロイ可能なコードベースを維持することで、チームは生産性を保ちながら効率よく作業を進められます。

DORA メトリクスの利点

DORA メトリクスの測定と追跡により、生産性や品質に多くの利点が得られます。以下にその例を示します。

可視性の向上

DORA メトリクスは、ソフトウェアデリバリー全体を把握し、ボトルネックや非効率を容易に特定できます。これにより、エンジニアリングチームはリソース配分やワークフロー最適化、プロセス改善の意思決定を効果的に行えます。

標準化の向上

DORA メトリクスは、DevOps パフォーマンスを測定する共通フレームワークを提供し、チームやプロジェクト、組織全体の標準化を促進します。これにより、ベストプラクティスを特定し、業界標準と比較してパフォーマンスを評価しやすくなります。

継続的な改善

DORA メトリクスは、改善が必要な領域やプロセスを特定するのに役立ちます。このデータを基にプロセスを調整し、戦略を見直すことで、ステークホルダーのニーズにより効果的に応えられます。

ビジネス目標との整合

DORA メトリクスは、ソフトウェアデリバリープラクティスがビジネス目標に与える影響についての貴重なインサイトを提供します。これらのメトリクスを顧客満足度や収益成長、競争力と関連付けることで、DevOps の取り組みを戦略的な優先事項に合わせ、ソフトウェアデリバリーがビジネスの成功とサステナビリティに貢献するようにできます。

DORA パフォーマンスの測定と管理

DORA メトリクスを追跡するためには、さまざまなツールと手法を組み合わせる必要があります。その後、パフォーマンスを向上させ、DORA メトリクスのスコアを改善するための戦略を実施できます。

各 DORA メトリクスの測定方法と、パフォーマンス向上のための活用法を見ていきましょう。

  • デプロイ頻度: Git のようなバージョン管理システムと CI/CD ツールを組み合わせることで、ビルド、テスト、デプロイを自動化し、コードデプロイの頻度を正確に追跡できます。
    自動テスト継続的デリバリーに組み込み、より速く信頼性の高いリリースを実現することで、デプロイ頻度が向上します。また、フィーチャーフラグを使用して安全かつ頻繁にデプロイを行い、IaC(Infrastructure as code)を導入することで、一貫性と安定性を促進します。
  • 変更のリードタイム: ソフトウェアデリバリーパイプライン全体の可視性を提供するツールを使用すると、変更要求からデプロイまでのデータを収集し、各プロセスの時間を測定できます。
    パフォーマンスを向上させるためには、承認ワークフローの合理化、マイクロサービスアーキテクチャによるバッチサイズの削減、IaC によるプロビジョニングプロセスの自動化が効果的です。
  • サービス復旧時間: 監視ツールでシステムの健康状態を追跡し、インシデント発生時にはアラートを受け取ります。また、インシデント管理プラットフォームを活用することで、対応を調整し、サービス復旧時間を正確に測定できます。
    サービス復旧時間を短縮するには、自動化されたインシデント対応ツールへの投資、インシデント後のレビューで根本原因の特定、カオスエンジニアリングによるシステムの耐障害性を積極的にテストすることが有効です。
  • 変更失敗率: バージョン管理システムや CI プラットフォームでビルドやデプロイの失敗データを収集し、変更失敗率を追跡します。さらに、デプロイ自動化プラットフォームを使用することで、環境間で一貫した信頼性のある構成を維持し、失敗の可能性を減少させます。

変更失敗率を改善するには、ブレイムレスレトロスペクティブ(誰も責めることのないふりかえり)を実施し、リスク軽減のためにブルーグリーンデプロイメントやカナリアリリースを導入することが有効です。また、開発チームと運用チームの間で責任を共有し、コラボレーションを強化することも重要です。

DORA 実装の課題

DORA メトリクスは DevOps パフォーマンスに関する貴重なインサイトを提供しますが、ソフトウェアデリバリーデータの収集・分析には多くの課題があります。

まず、異なるツールやデータソースから情報を収集する必要があるため、データ収集が困難になる場合があります。ツールの統合も複雑で、正確なメトリクスを生成するためには慎重な設定が必要です。

また、パフォーマンス関連のデータを収集するためのツールやプロセスが整っても、そのデータを正しく解釈するには専門知識が必要です。これらのメトリクスを適切に文脈化し、慎重に分析しなければ、誤解や偏った結果を招く恐れがあります。

さらに、メトリクスを実際のビジネス成果と結びつけるのは難しいことがあります。メトリクスが必ずしもビジネスの目標と直接的に関連するわけではないため、測定する指標が価値を生み出す KPI と一致していることを確認するための慎重なアプローチが必要です。

これらの課題を克服するには、組織の強いコミットメント、ツールや専門知識への投資、そしてメトリクスが全体目標にどう貢献するかの理解が必要です。

CI/CD で DevOps パフォーマンスを測定する

完全な DORA 追跡システムをゼロから実装するのは困難な作業ですが、重要なデリバリーメトリクスを比較的簡単に追跡する方法はいくつかあります。その中で最も迅速かつ効果的な方法の一つは、CI/CD パイプラインから得られるデータを活用することです。

CI/CD は、DORA が重視する速度と安定性を実現するために、迅速かつ信頼性の高いコードデリバリーを支援します。パイプラインのパフォーマンスを綿密に監視することで、デプロイ頻度、リードタイム、変更失敗率などのメトリクスを測定し、DORA の原則に沿った評価が可能になります。

CircleCI の Insights ダッシュボードは、DORA に準拠した主要なパフォーマンスメトリクスをキャプチャし、監視・共有します。これには、すべてのブランチや特定のプロジェクトワークフロー内のブランチの使用状況、成功率、パイプラインの実行時間に関する時系列データと集約データが含まれます。

では、Insights ダッシュボードが強調するメトリクスと、それが DORA の実装をどのようにサポートするかを見ていきましょう。

実行時間

実行時間は、CI/CD ワークフローの平均完了時間を測定します。この指標は、CI/CD プロセスの効率性とパフォーマンスを把握するのに役立ちます。

実行時間は、DORA の「変更リードタイム」メトリクスと直接関連しています。CI/CD ワークフローの実行時間を追跡することで、プロセスを最適化し、リードタイムを短縮することが可能になります。これにより、変更の本番環境へのデリバリーが加速され、アジリティが向上し、全体的なパフォーマンスも向上します。

スループット

スループットは、ステータスにかかわらず、1日に実行された CI/CD ワークフローの数を測定します。CI/CD プラクティスを実施するチームにとって、これらのワークフローの一部は本番環境への変更デプロイに関連しています。スループットの向上は、デプロイ頻度の増加に直結します。

高いスループットは、本番環境への変更を迅速にデリバリーできる能力を示し、アジリティと対応力の向上につながります。

Insights ダッシュボードを通じて CI/CD ワークフローのボリュームを監視することは、現代の開発ワークフローにおいて、効率的なソフトウェアデリバリーのためにデプロイパイプラインを評価し、最適化する上で重要な役割を果たします。

平均復旧時間(MTTR)

平均復旧時間(MTTR)は、CI/CD ビルドの失敗から次の成功までの平均時間を追跡する指標です。このメトリクスは、開発プロセスにおいてエラーを検出し解決するチームの効率性を反映します。

この時間差を測定することで、チームが問題にどれだけ迅速に対応できるかを把握でき、サービス復旧時間のメトリクスに直接影響します。失敗から成功までの平均時間が短いほど、チームはエラーを迅速に特定し修正できるため、サービスの早期復旧が可能となり、最終的にソフトウェアの信頼性やユーザー体験が向上します。

成功率

成功率は、実行された全 CI/CD ワークフローのうち、成功したワークフローの割合を示す指標です。このデータは、DORA の変更失敗率に直接影響を与えます。

十分なテストカバレッジとフィードバックループに支えられたビルド、テスト、デプロイの成功率が高いワークフローは、デプロイの品質を大幅に向上させます。これにより、本番環境での失敗に伴うリスクが軽減され、変更失敗率が低くなります。成功率が高いほど、開発パイプラインがスムーズに機能し、コードの安定性と信頼性が向上していることを示しています。

次のステップ

DORA メトリクスは、DevOps プラクティスにおいて卓越性を追求する上で重要な役割を果たします。デプロイ頻度、リードタイム、変更失敗率、サービス復旧時間といった KPI を数値化することで、組織の効率性と回復力について実用的なインサイトが得られます。

これらの DORA メトリクスをさらに深く掘り下げることで、DevOps プロセスを継続的に改善し、適応させることができ、持続的な成長と競争力を高めることができます。

ソフトウェアデリバリーチームが、CI/CD メトリクスを活用して運用および DevOps パフォーマンスを向上させる方法については、「2024年ソフトウェアデリバリー状況レポート(英語版)」をダウンロードしてください。DevOps プロセスの最適化を始める準備が整ったら、無料の CircleCI アカウントに登録し、運用の第一歩を踏み出しましょう。

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