AI DevelopmentJan 6, 202614 分 READ

新しい AI 駆動開発ライフサイクル

Jacob Schmitt

シニア テクニカル コンテンツ マーケティング マネージャー

長い間、ソフトウェア開発ライフサイクル(SDLC)は、アイデアが本番環境で動くコードになるまでの流れを理解するための基本的な枠組みとして使われてきました。計画・設計・開発・テスト・デプロイ・運用といったおなじみのフェーズに分けることで、複雑な作業を整理し、組織全体で連携しやすい共通の土台ができたのです。この仕組みによって、チームは進捗を把握しながら、安心してソフトウェアを作り進めることができました。

時代とともに、AgileCI/CDDevOps などといった新たな手法が登場し、ソフトウェア開発ライフサイクルには自動化イテレーションの進め方が取り入れられました。これにより開発は速くなり、作業負荷も減りましたが、それでもワークフローはフェーズごとの受け渡しや、人の目による確認に大きく依存していました。計画・レビュー・リリースといった工程は独立したままで、会議やフィードバックの往復、担当者の手が空くタイミングで進み方が決まります。 どれだけ高速化しても、最終的なペースは “人がどれだけ早く対応できるか” に左右されていたのです。

しかし今、AI がそれを大きく変えようとしています。LLM を活用したツールは、ソフトウェアデリバリーに直接関わりながら、コードやテストといった成果物の生成、アウトプットの検証、さらには改善提案まで自律的に行うようになりました。 これまでフェーズごとに順番に進んでいた工程も、今では複数の作業が同時並行で動き、フィードバックも多方向に流れていきます。 こうした変化によって、仕事の流れそのものが再構築され、成果を出せるチームのあり方もアップデートされつつあります。

本記事では、AI 時代にソフトウェア開発ライフサイクルがどのように変わるのか、その中で生まれる新しい制約やチャンス、そして加速する開発スピードに合わせてチームがどのようにプラクティスを進化させていけるのかを紹介します。

ソフトウェア開発ライフサイクルとは?改めて押さえておきたい基本

ソフトウェア開発ライフサイクルは、必ず従うべき決まった手法というわけではありません。 ソフトウェアがアイデアから本番コードになるまでに踏む典型的な流れをまとめた “共通のモデル” であり、作業がどのように進んでいくのかを理解するための便利な視点です。

チームごとに取り入れている手法はさまざまですが、多くのソフトウェア開発ライフサイクルには次のようなステージが含まれています:

ステージ 概要
契約と 要件定義 プロダクトマネージャー、アナリスト、ステークホルダーが中心となり、目標設定やユーザーニーズの把握、期待する成果のすり合わせを行います。
設計 デザイナーやアーキテクトは、その目標をもとに UI デザインやユーザーフロー、システムアーキテクチャへと落とし込みます。
開発 エンジニアは、それらの設計をもとにコードを書き、実際にプロダクトとして形にします。多くの場合、デザイナーやプロダクト担当者と密に連携しながら進められます。
テスト QA チームと開発チームは、手動テストや自動テストを通じて、機能・パフォーマンス・品質を確認します。
デプロイ・リリース コードは CI/CD パイプラインを通じて本番環境へ届けられ、場合によっては承認プロセスや段階的ロールアウトが入ることもあります。
運用・保守 運用やエンジニアリングのチームは、システムを監視し、インシデント対応や継続的なアップデートを行います。本番環境での学びは、次の計画フェーズへのフィードバックとして生かされます。

この循環型のフローは、長年にわたりソフトウェア開発チームの連携とプロセス整理に役立ってきました。 しかし、AI がもたらす変化のスピードとスケールは、従来のソフトウェア開発ライフサイクルが想定していなかった領域に突入しています。

AI がもたらすソフトウェア開発ライフサイクルの変化

AI の活用は、もはや特定のユースケースに留まりません。特にコード生成が注目を集めていますが、その影響はそれだけに収まりません。 LLM やエージェント型 AI ツールは今、ソフトウェア開発ライフサイクルのあらゆるフェーズに入り込み、ソフトウェア開発の進め方そのものを変え始めています。

計画は「数週間」ではなく「数分」で

AI はサポートチケットやドキュメント、分析データ、ユーザーフィードバックを統合し、 要件定義、機能概要、さらには仕様書のドラフトまでを素早く生成できます。これまで数日〜数週間を要していた初期調査や仕様策定は、わずか数分で完了します。プロダクトのアイデアは、最初の計画ミーティングが始まる前に、すでにプロトタイプ作成が可能な段階へと進んでいるでしょう。

デザインは「模索」から「加速」へ

UI 生成ツールや Design-to-code システムは、構想段階のアイデアから、実装レベルの高精度な UI 成果物を直接生成できます。さらに、システム設計パターンやユーザビリティのベストプラクティスをもとに、レイアウト、操作設計、画面遷移までえを提案します。その結果、デザインフェーズは「検討する時間」から「高速に試行・改善を回す時間」へと変わり、開発に直結する品質のアウトプットが、これまでよりはるかに早く整うようになります。

開発は「連続」×「並列」が当たり前に

AI を活用したコーディングツールにより、機能の土台作り、既存コードのリファクタリング、エラー対応までを自動で進められるようになりました。 さらに、複数の実装パターンを同時に試しながら、コードを書いたその場でテストとフィードバックを回せます。 その結果、開発は「順番に進めるプロセス」から、生成、検証、改善を途切れなく循環させるスタイルへと変化しています。

テストは「適応型」で「自律的」なプロセスへ

従来のテストは、変更の内容にかかわらず同じスイートを一律で実行していました。 一方で AI は、変更の影響範囲を特定し、適切なテストのみを重点的に実行する「適応型テスト」を実現します。 さらに、新しいテストケースの自動生成や、壊れたテストの修復にも対応。 エージェントがリグレッションを早期に検知し、カバレッジも継続的に補完していくため、品質保証は反復開発のスピードに遅れることなく進化し続けます。

デプロイは「監視」から「自律検証」へ

AI によってコード生成が加速する一方で、デプロイパイプラインはより大量かつ複雑な変更を扱う必要に迫られています。 その結果、従来のような人手中心の監視やトラブル対応では追いつけなくなりつつあります。 そこで新たに求められるのが、AI を活用した「自律検証型」のデプロイフローです。 AI はビルド結果の分析や設定の最適化を行い、デプロイ可能な状態かどうかを継続的に評価します。 たとえば CircleCI の自律型エージェント「Chunk」 は、パイプラインの状態を常に監視し、ジョブの失敗を自動修復したり、リスクのある問題を事前に特定・通知します。 その結果、人間が逐一介入しなくても、デリバリーは止まることなく進み続けます。 こうしてデプロイプロセスは、より高速に、より強く、そしてより自律的に進化していくのです。

メンテナンスは「事後対応」から「予測・自律修復」へ

従来のメンテナンスは、監視やチケット対応など問題発生後の修正が中心でした。 しかし AI はこれを予測・自律対応型の運用ループへと変えます。 障害の兆候検知や複数システムのインシデント相関分析、根本原因の特定、さらには修正コードの生成からデプロイまで自動で実行できるようになります。 また、本番環境のテレメトリやユーザー行動データは、プランニングやテスト工程に継続的にフィードバックされ、開発と本番の距離を縮めます。 その結果、メンテナンスは後対処ではなく、システムを自ら強化し続けるプロセスへと進化します。

新しいソフトウェア開発ライフサイクル:つながり合い、動き続ける開発サイクルへ

AI があらゆる工程に影響を与えることで、従来のようなフェーズ間の “受け渡し” は徐々に消えつつあります。 これまで直線的だったプロセスは、今や連続的に循環するフィードバックループ へ変化しています:

  • 企画段階のツールが、デザインや開発を一気に進められるプロトタイプコードを自動で生成します。
  • デザインシステムが、本番レベルの UI 成果物を出力し、開発とのギャップをなくします。
  • テストはコードの記述と同時に走り、継続的に品質を担保します。
  • デプロイや運用で得られた実際の知見は、そのまま計画・デザイン・テストにダイレクトにフィードバックされます。

もはやソフトウェア開発ライフサイクルは直線ではありません。 相互に影響し合い、リアルタイムで調整され、自己最適化しながら進化するネットワーク型のサイクルへと変わっています。

AI SDLC

これから成果を出していくためには、チームは“いまの現実”に合った考え方にアップデートする必要があります。仕事は一方向ではなく多方向に流れ、意思決定はより分散され、人と自律システムが並んで開発を進める。そんな前提で動く時代になっているのです。

新たな課題と制約

AI を中心としたソフトウェア開発ライフサイクルは大きな可能性を切り開く一方で、技術、組織、カルチャーのそれぞれの領域で、新しい制約や乗り越えるべき課題も浮き彫りにしています。

技術面の課題

AI はインフラそのものの前提を変えつつあります。 従来の CI/CD はシステムを理解した人間が、ある程度まとまったコードをプッシュする前提で設計されていました。しかし AI はその前提を覆し、構文は正しくても、システム固有の要件、設計思想、境界条件、運用上の制約と噛み合っていないコードを高速かつ大量に生成します。

これからのインフラに求められるのは、「正しく動くか」だけでなく、「自分たちのシステムに適合しているか」を、機械の速度で検証できることです。エンジニアが数分で機能のプロトタイプを生成できる時代に、ビルド結果を10分待つということはもはや許容されません。 コード生成のスピードに合わせて、検証のループも同じくらい圧縮されなければならないのです。

組織が直面するボトルネック

組織レベルでは、従来のプロセスでは対処しきれないスピードの変化が起きています。 コード生成のスピードは飛躍的に高まっている一方で、レビュー、セキュリティチェック、アーキテクチャ設計の妥当性検証は、依然として手作業で遅いままです。その結果、処理能力のミスマッチ(キャパシティの不均衡)が生じています。

ボトルネックは「コードを書く工程」から「コードを評価し、意思決定する工程」へと移りました。 AI は 10 通りの実装案を瞬時に生成できますが、どれが自社の戦略・チームのスキル・長期的な保守性に最も適しているのかを判断するのは人間で、ここに新たな制約が生まれます。 もし生成ツールだけを導入し、レビュー体制の強化やテスト基盤の整備、デプロイ自動化のアップデートを行わななければ、ボトルネックの位置が後工程へ移動するだけで、根本的な解決にはなりません。むしろ負荷が増大し、リリース全体のスループットをさらに圧迫する可能性すらあります。

文化的な変化

文化面では、AI の普及が「専門性」の定義そのものを塗り替えつつあります。 実装パターンを何年もかけて身につけてきたエンジニアに対し、AI は同等レベルのコードを数秒で生成します。「自分が積み上げてきたスキルが機械に代替されるのなら、自分の価値はどこにあるのか」その不安は決して過剰なものではなく、きわめて現実的な問いです。

これから重要になるのは 判断力・文脈理解・統合力ですが、そこへの移行はキャリアのアイデンティティそのものを揺さぶる転換でもあります。 チームは「AI に任せるべき領域」と「人間が介入すべき領域」を常に見直しながら、進化する AI の能力に応じて境界線を再調整し続ける必要があります。 シニアエンジニアの役割も変わります。実装や実行そのものを機械が担う時代に、技術リードに求められる能力は以前と同じではありません。 また、ジュニアエンジニアが AI を使って基礎学習プロセスをスキップし得る環境では、育成やメンタリングのあり方も再設計が必要になります。 この変化は採用基準、評価制度、昇進の条件、チームの協働モデル など、組織運営のあらゆる面に具体的な影響を及ぼしています。

AI 主導のデリバリーに適応する方法

ここまでの課題は、遠い未来の話ではありません。 すでに AI ツールを開発プロセス全体に取り入れているチームが、今まさに直面している現実です。 ただし、朗報もあります。すべてを一度に解決する必要はありません。 この変化をうまく乗りこなしているチームは、一気に構築しようとするのではなく、実効性の高い領域に的を絞って投資しています。

1. AI のアウトプットにスケールできるインフラへの投資

AI が生み出す大量のコードや変更量に、従来の静的なパイプラインでは対応しきれません。必要なのは、開発パターンに合わせて自動的に適応し、継続的に検証できる仕組みです。 つまり、「コードを書いた瞬間にテストが走る」「ビルドは数分で終わる」「問題が起きたらリアルタイムで通知される」といった環境です。 Chunk のようなツールは、このレベルの自律的な検証を大規模に実現します。インフラはコードの速度に追従するべきであり、ボトルネックになるべきではありません。

2. AI とデリバリーパイプラインをループさせる

AI が生成するコードは、あなたのシステムが実際にどう動いているかという文脈を欠いていることがよくあります。だからこそ、パイプラインや実行時のデータを開発プロセス側へフィードバックする仕組みが必要です。 ビルド結果、テスト失敗、デプロイの傾向といった情報を、MCP のようなプロトコルを使って AI アシスタントに直接渡せるツールを活用しましょう。 AI が「このプロジェクトでは特定のパターンがフレーキーテストを引き起こす」と理解できるようになれば、そのパターンを生成しなくなるのです。

3. 大規模チェンジセットを前提に、レビュー体制を再設計する

数日かかっていた作業が数分で生成できるようになると、プルリクエストのサイズは一気に膨れ上がります。これまで 200 行だった変更が、あっという間に 2,000 行になる世界です。 だからこそ、人によるレビューは 高リスクな変更や、新しいパターンに絞って集中させるべきです。 一方で、ルーチン的な検証は自動化し、低リスクな変更には素早く承認できる仕組みを整えることで、全体の流れを止めないようにします。 すべての行を同じ厳密さでレビューするのではなく、リスクベースで優先度をつけてトリアージする、これが AI 時代のレビュー体制に必要な考え方です。

4. 実行ではなく「判断」を中心に役割を再定義する

シニアエンジニアは、初期実装よりもアーキテクチャ設計やレビュー により多くの時間を割くべきです。 デザイナーはシステム思考と品質基準の策定にフォーカスし、プロダクトマネージャーは AI を活用して情報整理や探索を高速化することで、より深い顧客理解や戦略的な意思決定に時間を使えるようになります。AI が 10 通りの解決策を数秒で提示できるような時代では、「自分たちの文脈に最も合う選択肢を見極める力」 が価値のあるスキルとなっていきます。

これらの推奨事項に共通しているのは、AI がワークフローの一部を加速すると、他のすべての工程に圧力がかかるということです。 解決策は、どこか一箇所だけを最適化することではなく、ソフトウェア開発ライフサイクル全体が同じスピードで動けるようにシステム全体を進化させること にあります。

まずは最大のボトルネックから手をつけましょう。多くのチームにとって、それはパイプラインの基盤かレビュー体制のどちらかです。 そこを改善すれば、次にどこが制約になるかがすぐに見えてきます。これは一度きりの変革ではなく、継続的に繰り返すプロセスです。 最終的な目標は、AI の能力向上に合わせて進化し続け、人と AI が並走しながら開発できる 新しいデリバリーシステム を作ることです。

これからの道のり

ソフトウェア開発ライフサイクルがなくなるわけではありませんが、その形は今、根本から変わりつつあります。 AI が開発プロセスの奥深くまで統合されることで、チームは 計画、実装、検証、リリースの在り方を進化させる必要があります。

この変化をうまく乗りこなす組織は、AI を「近道」や「コスト削減のための道具」としてではなく、スピード・信頼性・継続的改善を軸にデリバリーを再構築する「力の増幅装置」として捉えています。 思考の型を更新し、システム全体を再設計し、AI 開発を大規模に持続可能にするためのインフラへ投資できる組織が、この新しい時代の主役になります。

私たちは、まさにその未来を見据えてプロダクトを作っています。

もしあなたのチームが、AI 主導のソフトウェア開発ライフサイクルの中で「検証」をどう位置づけるべきかを見直しているなら、いまこそ自律型検証が新しい開発スピードにどう適応できるのかを探るタイミングです。

CircleCI の新しいウェビナーシリーズ 「The Modern Testing Stack(英語)」 では、先進的なチームがどのように AI を継続的テストとデプロイに活用しているかをご紹介しています。

本シリーズでは、次の内容が学べます:

  • AI がプランニングから運用まで、ソフトウェア開発ライフサイクルの全段階をどう再構築しているか
  • AI で加速したワークフローにおいて、検証が重要な鍵となる理由
  • 開発スピードと品質を両立する、自律型検証の導入方法

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