国内線・国際線の旅客サービスを統合ANAの次期システム開発をCI/CDが支える
顧客サービスを強化するため旅客システムを統合
ANAグループは、すべての顧客へシームレスで魅力あるサービスを提供すべく、システムプラットフォームの統合を進めている。
具体的には、これまでオンプレミスで構築・運用してきた自社保有の国内線旅客サービスシステムを、Amadeus社が提供するSaaS型の旅客サービスシステムに統合。国内線・国際線の予約を一元管理することで、Webサイトでの予約確認、各種サービスの申し込み、空港での乗り継ぎ手続きなどの間で顧客情報を連携し、一層の顧客の利便性向上を図る狙いだ。運航スケジュールに変更や遅延が生じた際も、ANAアプリやメール、SNSでの迅速な情報提供を実現できるようにする。
この取り組みをテクノロジー面で支えているのがANAシステムズである。
「ヒトやモノがグローバルに行き交う時代、国内線・国際線でシステムを分けることが最適解ではなくなりつつあります。お客様の利便性向上はもちろん、社内オペレーションの効率化やDX推進も見据えた取り組みとして、2019年に立ち上がったのが『次期国内旅客プロジェクト』。そこで当社はANAグループの既存事業・新事業をDXによって変革・創出する『変革支援パートナー』としてシステム開発を進めています」とANAシステムズの前田 敏彰氏は説明する。
従来のCI/CDツールが抱えていた課題を解消
同社はプロジェクト発足当初からDevSecOpsの体制の構築を見据えて体制・プロセス強化を積極的に進めてきた。その一環で導入したのがCircleCIだ。
「グローバルの実績が豊富にあるCI/CDツールのデファクトスタンダードで、ユーザーコミュニティも活発です。活用に向けてさまざまな情報を入手しやすい点はメリットでした。また、SaaS型サービスのため初期コストが抑えられること、保守運用の手間がかからないことも決め手になりました」と前田氏は採用理由について話す。
同社がCI/CDツールを導入するのは今回が初ではない。ANAシステムズが担当している既存システムでも、OSSのCI/CDツールを活用してきたという。しかし、既存のツールは機能が限定的で、同社が求めるテストやビルド、デプロイの大幅自動化は具現化できていなかった。
「プログラムコードのマージやビルド、リグレッションテストといった多くのプロセスを人手で行っていました。これにより、ライブラリ管理を専門に行うメンバーが必要不可欠となり、作業の遅延や、特定のタイミングでしかリリースできないといった事態が発生していたのです」と前田氏は振り返る。
そこで同社は、約1カ月にわたるPoCを実施してCircleCIの機能を検証。一連の開発プロセスを大幅に自動化できることを確かめた。
またCircleCIは、Linux、MacOS、Windows、Docker、GPU、Armなど多くの実行環境に対応。テストツールもJest、Mocha、 pytest、JUnit、Selenium、XCTestなどのフレームワークと連携できる。「当社はフロントエンドとバックエンド、両方のシステム開発を手掛けています。システムごとの特性に合う環境を構築できる点も、当社の業務にフィットしていると感じました」と同社の岩田 恭兵氏は続ける。
属人化を解消して月1000時間の工数を削減
次期国内旅客プロジェクトの歩みは、そのまま同社におけるCircleCI活用の歩みと重なる。利用開始以来、多くの効果が得られているという。
まず大きいのは人的工数の削減だ。ビルドからテスト、デプロイまでの各プロセスで発生していたライブラリ管理者の手作業はほぼゼロになった。特にテストは、以前は自動化できていなかったリグレッションテストを含めて大幅な自動化を実現している。
「変更したソースコードをプッシュすると自動でテストが開始されます。開発効率を高められているほか、手作業で起こりがちなテストの抜け漏れも防ぐことができています」と岩田氏。全体では1カ月に延べ300人がCircleCIを利用しており、削減工数は平均1000時間程度に上るという。
もう1つ大きな効果がセキュリティ検証の効率化だ。同社では従来、セキュリティ検証をアプリケーションの稼働開始直前に行っていたため、不備が発覚すると大きな手戻りが発生していた。「CircleCIでは、テスト時にセキュリティ検証ツールを組み込むことで、より早い段階から高頻度に検証を行えます。これにより、大きな手戻りを減らせています」と岩田氏は語る。
さらに同社は、CircleCIが提供する有償のプレミアムサポートも活用している。中でもCircleCIのエキスパートによるコードレビューが役立っているという。
「『デプロイまでの時間を短縮したい』『クレジット使用量を抑えたい』といった当社のニーズを汲み取って、目的に合うパイプラインのソースコードの記述などをアドバイスしてくれます。踏み込んだサポートを受けられることで、非常に効率的なパイプラインを実装できるようになったと感じています」と岩田氏は強調する。
2023年5月現在、次期国内旅客プロジェクトは引き続き進行中だ。同社は今後もCircleCIのより高度な活用法を検討しながら、一層大きな効果を引き出していく。
「現在、CircleCIを適用しているのは開発系のみですが、今後は本番環境へのリリースにも適用していきたいと考えています。本番環境では、テストやリリースのタイミングによりシビアな要件がありますが、CircleCIであれば問題なく適用できると考えています」(岩田氏)。本番稼働中のアプリケーションの脆弱性の排除、保守対応のスピードアップなどが実現できるだろう。
なお次期国内旅客プロジェクトでは、巨大なモノシリック型のシステムからマイクロサービスアーキテクチャーへの刷新も進めている。そうした中では、一層の開発生産性の向上、スピードアップ、コスト最適化なども同社の重要ミッションとなる。そこでもCircleCIの強みが生きてくるはずだ。「引き続き強力なサポートを期待しています」と前田氏は最後に語った。
「CircleCIはCI/CDツールのデファクトスタンダードです。」
前田 敏彰 氏 | プロジェクトマネジメントチーム プロジェクトリーダー | ANAシステムズ株式会社
ANAシステムズ株式会社について
ANAシステムズ株式会社 :ANAシステムズ株式会社(公式HP) ANAホールディングス傘下のIT会社として、情報処理システムや通信システムの設計・開発を担当。ANAグループの既存事業・新事業をDXによって変革・創出する「変革支援パートナー」になることを目指す。