加速するゲームコンテンツの更新サイクル CircleCIが開発現場の強力な 味方になる
市場ニーズに応える上で自動化が必須に
バンダイナムコエンターテインメントから2012年に分社・独立したバンダイナムコスタジオ。グループ最大の開発体制を擁し、新たなゲームコンテンツの創出を担う自立型のクリエイター・エンジニア集団だ。
ゲームコンテンツを取り巻く状況は近年、大きく変化している。主要市場がWeb系からモバイルアプリ系にシフトする中、ユーザーを飽きさせない高頻度なイベント実装やコンテンツ更新の重要性が増大。バンダイナムコスタジオも、プロダクトのデリバリーサイクルを短縮する方法を模索してきたという。
これを支えているのがCircleCIだ。2016年に同社内で初めてCircleCIの導入に踏み切ったバンダイナムコスタジオの保科一成氏は、次のように振り返る。「私のチームはモバイルゲームのサーバーサイドの開発を担当しています。以前はオープンソースのCI/CDツールを使っていましたが、利用規模が拡大するにつれ、リソースが枯渇してビルドが停止するといった不具合が出てきました。そんなとき、CircleCIを知りました。試しに Freeプランで利用してみたところ、想像以上に我々の開発スタイルにフィットしたため、本格導入を決めたのです」。
最も大きな効果といえるのが、テスト/ビルドプロセスの時間短縮である。オープンソースのCI/CD ツールでは1件のテストからビルドを実行し、デプロイが完了するまでに約30分を要していた。対する CircleCIでは、高い処理性能によってテストの並列化が柔軟に行える。大幅な高速化が図れた結果、プロセス実行時間は以前の1/3の約10分に収まるようになったという。
「コンテンツ開発の現場は機密情報に溢れています。そのため、セキュリティの観点から、CircleCI 検討時の当社は基本的にSaaSの利用を厳しく制限していました。しかし私は、CircleCIの効果を鑑みて、使わないのは損だと感じました。粘り強く社内で交渉し、最終的には承認を取り付けることができました」(保科氏)。現在は規定も整備され、積極的なSaaS利活用が進んでいるというが、CircleCI の導入はその第一歩になったという。
CI/CD環境の維持における属人化を解消
保科氏のチームで成果が出始めたことで、ほかのチームも CircleCI に注目しだした。2017年春から活用を開始したのが、業務用ゲームコンテンツのサーバー部分の開発を担当している同社の松山健吾氏のチームである。
「我々も以前はオープンソースのCI/CDツールを使っていましたが、結果的にほぼ全面的にCircleCI へ切り替えました。最大のメリットは、CI/CD環境の維持にかかっていた工数とコストの削減です」と松山氏は語る。
ゲームコンテンツの開発はいつも計画通りに進むわけではなく、開発途中で企画の修正が入ったり、新たな言語への対応が必要になったりすることも多い。その度にCI/CD環境の再構築やメンテナンスが必要になるが、従来はツールを扱うスキルを持った特定のメンバーがいなければ行えず、開発プロセスが遅滞する要因になっていたという。
「CircleCIでは、ビルドやテストの設定を変えた複数のコンテナをあらかじめ用意しておき、切り替えることで簡単に環境を変更できます。運用手順も分かりやすいドキュメントにまとめられているため、一部の“職人”に頼らなくても、誰でも扱えます」(松山氏)。その結果、開発スケジュールの遅延は大幅に削減されたという。
加えて松山氏が評価しているのが、外部サービスとの連携性である。
同社の開発現場では、ゲームの基本構成を考える「プランナー」が自ら CI/CD ツールを使ってテストを行うことも多い。ただ、非エンジニアであるプランナーは、ツールのコマンドを直接操作できない。そこで Slack 経由で CircleCI を起動する仕組みを構築し、利用しているという。
「Slackに特定のメッセージを入力すると、裏側でテストが走り出す仕組みを用意しました。より多くの人がCI/CDの効果を享受できるようにし、プロセスの一層の効率化、標準化を図っています」とこの仕組みを導入した保科氏は紹介する。
トータルな自動化により人的ミスをゼロに
さらに、松山氏のチームとほぼ同時期に、同社の佐藤誠一氏のチームもCircleCIの活用を開始した。このチームはスマートフォン向けゲームのサーバーサイドの開発を担っている。活用により、テストからビルド、デプロイまで一貫した自動化が実現できているという。
「以前使っていたCI/CDツールではデプロイを手動で行う必要がありました。人手の作業はどうしてもミスが起こるので、まれにテストやビルドを行った結果が実装されていないケースがありました。CircleCI 導入後、そのような反映漏れはゼロになっています」と佐藤氏は強調する。
また同社には元来、テストを重視するカルチャーがあるという。こまめにテストを行うことで、手戻り削減による開発効率化、プロダクトの質の向上を図るのだ。この場合、開発が進むほどテスト件数は増えるが、そこでCircleCIが効果を発揮している。
「保科も評価する通り、CircleCIはタスクの並列処理に強みを持っています。多くのテストを自動化することで、より大きな開発効率化が狙えるほか、人的ミスの削減も図れます。これはほかの CI/CD ツールでは得られないメリットです」(佐藤氏)
このように、チームごとの効果を確認しながら徐々に活用を広げているバンダイナムコスタジオ。2019年に CircleCI をパフォーマンスプランにアップグレードし、同時並列実行可能コンテナ数を最大80に拡張したほか、直近ではカスタムプランにアップグレードし、コンテナ 数を最大200まで拡張したという。今後も、さらに多くのプロダクトで CircleCIが活用されていくことだろう。
「新規プロダクトの開発に当たり、CircleCIはCI/CD領域におけるファ ーストチョイスとなっています」と話す松山氏。活用によって高められ た開発力を、自社のさらなる競争力強化へつなげる考えだ。
「以前使っていたCI/CDツールではデプロイを手動で行う必要があり ました。」
佐藤 誠一 氏 | リードエンジニア | 株式会社バンダイナムコスタジオ
株式会社バンダイナムコスタジオについて
株式会社バンダイナムコスタジオ 公式HP: https://www.bandainamcostudios.com/
バンダイナムコエンターテインメントから開発機能を分社化して独立。家庭用ゲームソフト、 モバイルコンテンツ、PCコンテンツの企画・開発・運営を担い、エンターテインメントを通じた 「夢・遊び・感動」を世界中の人々へ提供し続ける。